新しいシンクライアントの形 - VDI との付き合い方

Published 18 September 09 11:30 PM | Sysplag 

こんにちは。今回は日頃 SI/ISV パートナー様やお客様とお話をする中で感じたことから、一つ記事を書かせていただきます。 

■ 同じ IT でも、立場が違えば向き合い方がまるで違う

マイクロソフトという会社にいると、同じ IT を生業としているのにも関わらず、SI/ISV パートナー様や、情報システム部門のお客様と意識差を生じてしまうことがあります。

マイクロソフトは新しい IT (ソフトウェア)を生みだす立場で、パートナー様はそれを活用してエンドのお客様に IT を具現化し、エンドのお客様は IT を活用してビジネスに生かす立場なわけで、それぞれ IT への向き合い方が違うわけですから、当然といえば当然ですね。

私たち(マイクロソフトのプリセールス エンジニア)は、新しい IT が生まれる場所のそばにいる立場上、それをできる限り多くのパートナー様やエンドのお客様に知っていただき、その価値に気付いてもらうことが主な仕事です。

■ IT と温泉は同じ!?

これは温泉と同じようなものです。どんなに優れた効能の温泉でも、人が立ち入らない山奥の源泉でこんこんと湧いているだけでは、誰もその効能を享受することはできません。誰かが、ここは素晴らしい温泉で、浸かるとこんな効果があると多くの人に伝えることで、初めてその温泉を目的に人が訪れるようになるわけです。そして、源泉が浴槽に引かれ、浴槽までの道が整備され、近隣に温泉宿ができて温泉地が生まれて、継続的に多くの人がやってくるようになります。

これを IT に当てはめると、温泉(源泉)が新しい IT、温泉に浸かる人がお客様、そして浴槽や宿を構築・整備するのが SI/ISV パートナー様ですね。そして、その温泉の良さを広く伝えるのが、私たちプリセールス エンジニアの仕事です。

ちょっと違うところは、温泉は自然に湧いているのに対して、新しい IT は誰かが生み出しているというところです。もちろんマイクロソフトもその一部です。

■ 前置きが長くなりました

そんな新しい IT の源泉の一つが、件名に書いた「VDI」です。恥ずかしながら、私はこの VDI は既に割と一般的なものと勘違いしていました。マイクロソフト社内では(特に私の部署近辺では)仕事上の会話で普通に交わされている用語だったからです。ところが、パートナー様やお客様に 「VDI という言葉をご存知ですか?」とお聞きすると、大多数の方が「知らない」と仰います。仮想化のご担当、クライアント PC のご担当など、VDI に比較的近いと思われる方々もそうです。それが、冒頭に書いた「同じ IT を扱う立場での意識差」として感じた所以です。

ということで、今回はまだまだご存じない方が大半と思われる、VDI についてご紹介したいと思います。

■ VDI = Virtual Desktop Infrastructure とは?

この VDI を日本語に訳すと「仮想デスクトップ基盤」となります。シンクライアントの一つの提供形態、ということになります。

シンクライアントとは、サーバー上に展開されたデスクトップ環境を、ネットワーク経由でクライアント端末上に表示し、ユーザーが操作する仕組みです。この時、実際のアプリケーションの処理などはサーバー側で行われ、クライアントはサーバーのデスクトップに対して、キーボードやマウスなどの入力操作と、デスクトップの画面表示を行うのみです(以下、この仕組みを「従来からのシンクライアント」と表記します)。

このサーバー側の仕組みを変えて、サーバー上で仮想マシンを用意し、各クライアント端末からはサーバーのデスクトップではなく、仮想マシンのデスクトップを利用する構成が VDI です。

これだけでは、VDI のどこが良いのかいまいちピンと来ないかもしれません。実際、シンクライアントを検討する際に、VDI は必ずしも最良の選択とは限りません。では、従来からのシンクライアントと比べ、VDI にはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか?

■ VDI のメリット

アプリケーションの安定した動作が期待できる
VDI では、アプリケーションの稼働環境として OS のレベルから他のユーザーとは分離された環境が提供できますので、マルチユーザーやマルチインスタンスに対応しないアプリケーションも問題なく利用することができます。

クライアントの物理 H/W とデスクトップの管理を分けることができる
サーバー上にクライアント環境が OS 丸ごと一括して保存されているため、クライアント環境のメンテナンスが一か所でまとめて行えます。また、H/W のライフサイクルとデスクトップ環境のライフサイクルを分けて、別々に展開することが可能になります(これは従来からのシンクライアントも同様ですが)。さらに、サーバー上の仮想マシンならデバイスドライバも共通なため、「ある端末で起こる不具合が、別な端末では発生しない」という類の H/W 構成に起因するトラブルも無くなります。

■ VDI のデメリット

豊富なサーバーリソースが必要
従来からのシンクライアントと比べると、多数の仮想マシンをホストすることになりますので、それだけ潤沢な CPU、メモリ、HDD などのリソースが必要になります。

H/W 依存の環境を提供できない
これは従来からのシンクライアントでも一部当てはまることですが、仮想マシンは必要最低限の H/W を利用することしかできないため、特に描画系、音声処理系のアプリケーションなどではパフォーマンスが落ちる or そもそも使えない可能性があります。クライアント端末側で持っている H/W に処理をリダイレクトする機能なども一部搭載され始めていますが(リモートデスクトップ側の機能)、VDI はあくまでも限定的なオフィスワークのための提供形態とした方が良いでしょう。

■ リッチクライアント + シンクライアントという選択も

このように、VDI にはメリットだけではなく、決して無視できないデメリットも存在しますから、利用シナリオによっては VDI は全く適さない場合もあります。また、仮に VDI のデメリットが当てはまらない場合でも、これまでいわゆるリッチクライアント(普通のデスクトップ環境)で行っていた業務を、丸ごと全部シンクライアントに置き換えるには、サーバーインフラ周りの刷新、クライアント端末の置き換え、ユーザートレーニング(シンクライアントでできることとできないことの理解)など、多大なコスト負担と共に利用者の認識を変えてもらうことも必要です。

話が VDI とは逸れますが、そこでマイクロソフトでは、リッチクライアントとシンクライアントの「イイトコ取り」ということで、リモートデスクトップサービス(従来のターミナルサービス)を使った、ハイブリッド型のシンクライアントの導入をお勧めしています。つまり、リッチクライアントでないと厳しい業務は従来通り自分のローカル PC 上で行い、機密情報の取り扱いや、サーバー側で集中管理したいアプリケーションなど、シンクライアント的に提供したい機能は、リモートデスクトップサービスで公開する、といった適材適所での利用です。

今回の記事の趣旨とは離れますので、リモートデスクトップサービスの詳細には触れませんが、リッチクライアントとシンクライアントのハイブリッド型が、多くの場合にマッチする現実的な解であり、VDI やフルシンクライアント環境が最良の解となる例は、必ずしも多くないということだけはご認識いただければと思います。

■ Windows Server 2008 R2 が提供する VDI 機能

マイクロソフト製品で VDI を提供するためには、一般に以下のテクノロジーが必要です。

必要なコンポーネント 対応するマイクロソフトの製品・技術 説明
仮想化基盤 Windows Server 2008 R2 Hyper-V 2.0 仮想マシンをホストするサーバー環境
リモートデスクトップ リモートデスクトップサービス ※ サーバーに入力と、デスクトップの画面表示
仮想マシンのセッション管理 RD 仮想化ホスト
RD 接続ブローカー
仮想マシンを VDI 用に管理し、各クライアントと仮想マシンを引き合わせる
仮想マシンのメンテナンス
仮想化基盤全般の管理
SCVMM (System Center Virtual Machine Manager)  2008 R2
(または手動)
仮想マシンを準備したり、削除する。その他仮想化基盤全般の管理
クライアント端末 Windows XP, Vista , 7 等  

※ 旧:ターミナルサービス(Windows Server 2008 R2 では「リモート デスクトップ サービス」という名称になります)

この表の通り、マイクロソフトの製品・技術(Windows Server + Windows クライアント)を組み合わせることによって VDI を構築することが可能ですが、これまで「仮想マシンのセッション管理」機能は提供が無く、自前でクライアントと仮想マシンの紐付けを設定するか、パートナーソリューションを利用する必要がありました。

しかし、Windows Server 2008 R2 では、ターミナルサービスの機能が拡張されて、新たに RD 仮想化ホスト という機能と、従来 TS セッションブローカー(Windows Server 2003 ではセッションディレクトリ)と呼ばれていたリモートデスクトップのセッション管理機能が、RD 接続ブローカーと名前を変え、VDI のための仮想マシンとセッションの管理機能を提供するようになります(赤字部分)。

つまり、Windows Server 2008 R2 では、OS に搭載されている標準機能だけで、最低限の VDI のサーバーサイド機能を提供できるようになります。ただし、多くの場合は、大量に必要となる仮想マシンの準備や仮想化基盤の運用管理作業を効率化するために、SCVMM (System Center Virtual Machine Manager) 2008 R2 や、ホスト OS の運用監視や管理を行う SCOM (System Center Operations Manager) 2007 R2、SCCM (System Center Configuration Manager) 2007 R2 のような管理製品も併せて必要になります。

■ VDI に必要な製品・ライセンス

この通り、マイクロソフト製品で VDI を構築する場合、様々な製品・テクノロジを横断的に使用します。いかがでしょう。・・・ちょっと複雑ですよね。そこでマイクロソフトでは、VDI に必要なライセンスを包含した VDI Suite ライセンスというものを提供しています。VDI Suite には Standard と Premium の 2 種類があります。

image

なお、VDI Suite にはクライアントの仮想 OS として利用するためのライセンスは含まれていませんので、VDI 環境で Windows クライアントを利用するためには、 VECD または VECD for SA というライセンスが併せて必要になります(マイクロソフトの VDI ではなく、他社の VDI 製品を利用して VDI を提供する場合も、VECD または VECD for SA は必要です)。

ライセンスに関しては、ここでの説明だけでは理解が不十分なところもあるかと思います。VDI Suite は、この blog の執筆時点では誕生して間もないライセンス体系ですので、これから順次情報が公開されていく予定です。詳細は下記リソースをご覧いただき、導入に当たっては十分なご検討をいただければと思います。

■ 参考情報

VDI に関しては、下記 @IT の記事もあわせてご参照いただくと理解が深まります。
http://www.atmarkit.co.jp/fwin2k/words/004vdi/vdi.html

さらに、Windows Server 2008 R2 の VDI 評価ガイドを以下のサイトよりダウンロードいただけます。http://www.microsoft.com/japan/windowsserver2008/prodinfo/R2/evaluations.mspx 

VDI のライセンスを含めた解説については、以下のサイトをご参照ください。

Virtual Desktop Infrastructure Suite
http://www.microsoft.com/japan/windowsserver2008/r2/vdi-suite.mspx

Windows Vista Enterprise Centralized Desktop (VECD) のライセンス
http://www.microsoft.com/japan/virtualization/licensing/VECD.mspx

Core Infrastructure Server Suite (CIS)
http://www.microsoft.com/japan/windowsserver2008/r2/eci.mspx
※ CIS は、VDI のような大規模サーバー環境で利用可能な Suite ライセンスで、Windows Server のサーバーライセンスと、サーバーの運用管理に利用可能な System Center Server Management Suites、およびウィルス対策として Forefront Client Security のライセンスを含んでいます。


マイクロソフト株式会社
山崎 淳一

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